盾なりし知識、枷なりき特質 12
「おかえりなさいませ、おとーさ…………なぁんだロベルトなのー?」
「なぁんだー」
お出迎えしてくれた女の子二人組は非常に可愛かったです。幼稚園に入る前ぐらい。ホントに可愛い。なにこの美形一族。
その可愛い喜色満面が……いとも容易く不機嫌に早変わり。
まあそうだよね。自分が飛びつこうとしたのが、待ちわびてただろうお父さんじゃなくてこんなやつだったら、そうなるわな。
ああ、それでもでっかいお兄ちゃん認識はあるらしい。ちょこまかとロベルトの足元に纏わりついてー……めっちゃ、うざがってるよロベルト。うん、あんたが子ども得意なはずないって信じてた。期待を裏切らないでくれてありがとう。
「ロベルトなにしにきたのー?」
「きたのー?」
「……家に帰ってきたの」
口をそろえて「えー」の合唱。
み、耳がきーんときた……お子様方よ、きみたちという種族はどうしてそう無駄に威勢があるのかな。ご近所迷惑だからもうちょっとボリューム絞ろう……って、こんなでかい家じゃ近所迷惑もなにもあったもんじゃないか。この声が外に聞こえるかどうか怪しいぞ。
「ちがうよー。ここはアルたちのおうちだよー。ロベルトは自分のおうちにかえりなよー」
「りなよー」
姿かたちは大変に可愛い。可愛らしいことこの上ない。
でも言ってることは辛辣この上ありません。子どもって残酷。最初の言葉がなにしにきたの、な時点で、もうこの家の住人として認められていませんよねロベルトよ。
「……我が弟。あんたどれだけ家に帰ってないの」
「ふた月ほど」
もはや里帰りのレベルだよね!
それはなにか、そんだけ帰らなくても十分なくらい研究室とやらに私物を持ちこんでるということか。もういっそ住んどけよ、定住しろよ研究室に。
「あーレクおばちゃんだー」
「だー」
「きょうはスイはいっしょじゃないのー?」
「ないのー?」
お姉ちゃんのエコー役割を果たしてる妹ちゃん、可愛いな! 舌足らずなのがまた破壊力を増して……って、あれ。目の錯覚? レクお姉さんのこめかみに青筋が……気のせい、気のせいだよね。だってホラ笑顔だし。そうそう、聖母のような慈悲深ささえ感じさせそうな……。
「アルテア。サリーシャ。私のことはおねえさまって呼びなさいって、いつも言ってるわよねぇー?」
感じさせ……そう、……な?
「おばちゃんでしょー?」
「おばちゃんおばちゃん」
い、今、舌打ちが……!
んでもって笑顔でぼそっと吐き捨てた。躾のなってないガキどもめ、しばくぞコラ、……って。こわっ!
似てないなんて言ってすみません。訂正します。
やっぱ姉弟!
「ねーねーロベルトー。このおばちゃん、ロベルトのかのじょー?」
「かのじょー?」
……うん。殺意が芽生える!
「あのね、おねえちゃんは、こいつの彼女なんかじゃないからねー?」
おねえちゃん、を強調してみました。
てかどうせ若く見えるなら、子どもからのおねえちゃん判定くらいよこしやがれってんだ。
「ちがうのー?」
「のー?」
うんうんそうだよ違うんだよー、いい子だからそれで納得してねーと頷いてみる。そろって首傾げる姿かわいいなちくしょう!
「わかった! じゃあ、じょうじんだ!」
「じょーじんだっ」
……おーい。
待ってー。
お願い待って。
め、目眩が。そして殺意が、殺意がぐつぐつと沸騰して……あれ、殺意の沸点て何℃なんだろう。そうだこういう時こそ使いどころ不明だった電子辞書の活躍が期待される場面……って載ってるかぁーっ!
相手は子ども、子どもが相手、子どもの未来を絶やしちゃいけないってか絶やしたらその時点で私って犯罪者ー!
「バル兄様ったら、子どもになんて言葉教えてるのよ」
「いやグリフィスだから絶対」
「あいつ……。ところで今どこにいるのか知ってる? グリフィス。最近全然会わないんだけど」
「知らない。この家にいないなら、またそこらを放蕩してるんじゃないの」
その姉弟さんたちっ!
勝手に納得して会話を展開してないで、この「じょーじんじょーじん」を連呼してはしゃいでるお子さまたちをなんとかしてー!
お子さま二人組は、その後に現れなすった母上様に叱られながら奥へと引っ込んでいきましたとさ。
お上品な奥様に何度も何度も謝られたけど……心の傷は、そう浅くはないんだぜ……。ふふっ……。