盾なりし知識、枷なりし特質23






「これまでね、異世界から来た人が属性2つ持ってた事例ってないのよー。あ、これもう聞いた?」
「……ような?」
「うんうん、よろしい。で、それがどうしてかっていうと実はまだしっかり解明されてなかったりなんだけど」
「こちら側に来た時に属性が勝手に自動取得されるとか、本来の世界で自分が持っていた能力に最も近い属性がつくとか、そんな程度。絶対数が少ないから検証が難しい。それにしたって、あんたは変」

 変とか言うな!
 私にしてみりゃあんたたちの方がよっぽど変です。でもね、変じゃない人間なんてこの世にいないと思うんだ。これは私の持論ね。変じゃない部分がない方が変わってると思う……って、いろいろ矛盾してるなこの持論。

 カイリさんの提言が効いたのかどうかわからないけど、結局二人で実験説明。
 一応真面目に聞いてますけど……え、ていうかこれ、私に拒否権ありますよねぇさすがに?! ないないって言われてるけど、ここはあるよね?!

「変って、なにがです」
「……俺が最初、あんたの属性なにだって言ったか覚えてる?」
「えー……」

 待って待って思い出す!
 たしか、そのときは絶賛混乱状態だった気がするんだ。えーとなんだったかな! こう、喉まで出かかってるんだけどあと少しってところで出てこない。うーもどかしい!

「水……と? あー、あともういっこ」
「地」

 哀れなモノを見る目やめてください!
 そんな記憶力悪い子じゃ……ないと、思うよ……? お、思いたい、な。
 私、どっちかっていうと短期記憶型。長期記憶は苦手! ついでに言うと耳から聞いただけのメモリー機能は弱いです。ノートにがしがし書いて手と目で覚える視覚型。あれ? これは暗に……聴覚記憶力は弱いって言ってる? 暗にでもなくはっきりと言ってる。

「水と地。俺と同じ」

 あ、そうなんだ? 初耳……あれ? 聞いたっけ? まぁいいや。それにしてもやだなあロベルトとお揃いて……。

「……あの時はね」

 はい?

 え、なにその取ってつけたような「あの時はね」って。な、なんかロベルトの目が今度は珍獣を見るような、なんともいえない微妙なものになってるんですが。

「あの時はって」
「そう。そこで実験なの!」
「はあ?」

 うきうきと楽しげに私の腕にしがみついた……ではなくて腕を締めつけて「逃がすもんか」状態のピアスさん。こわ! 顔が、獲物げっと! みたいな本能の部分に働きかけてそうな笑顔になってる!

「や、やですやです! 私まだ解剖とかされて開きにはなりたくないですってば!」

 もう頭の中は理科の実験室。
 ホルマリン漬けにされたおどろおどろしいカエルさん、ピンで磔にされたチョウチョさんたちの標本、縦半分だけ内臓と筋肉むき出しの人体模型……掃除の分担が回ってくるのが怖かったなあ。でもごめんなさい、最後のはもうべつに怖いと思えません。むしろ最後の学生時代、実習で本物を見ました触りました。でも自分がそんな風にされるのとはまた別の話ですから。

「頼まれてもしないってそんなの」
「やーねーそんな前時代的な実験なんてもうしないわよ、あたし」

 ……昔はしてたんですか?!
 怖すぎてつっこめません。これは、つっこんだら終わりだ。

「なーんにも痛いこととかしないし、ただ立っててくれればいいから。すぐ終わるしー。あ、なんだったら座っててくれてもいいけど。……どう? ロディ」
「やっぱり。火」
「……ホントー?」
「あれ、ピアス。きみロベルトの感知力信用してないの?」
「してるわよ」
「あ、あのー……?」

 話が全く見えないのですが。わ、わかるように説明……!

「じゃ、はい。カイリ交替」
「えーこんな若い子に抱きついたりしたら、セクハラって言われない?」
「オヤジくさっ」
「いいよ抱きつかなくて。それに見た目ほどは若くないらしいし」


 …………「若くない」……だと……?


 ロベルト…………あとで……………………覚えてろ、よ……っ!!

「そう? ならこれで」

 言って、私の頭にぽんっと手を乗っけたカイリさん。
 え、なにこの小さい子扱い。しかもなんかぐりぐり掻きまわされてるんですけど。……えー……。自分、遠い目になってるのがよくわかるわー。

「……光と闇」
「わ。すごいね。確実じゃないのこれ」
「だからこれなんの実験ですってば……」

 どうも私に実害はないようですが、正直わけがわかりません。
 属性の話だっていうのはわかるんだけどね、なんでそこで抱きつかれたり頭撫でられたりされなきゃならないんでしょう。

「……わからない?」
「わかりませんよ」

 わかりませんとも。ええ、わかるように説明されてませんからね、特にあんたに!

「きみの属性、ころころ変化してるんだって」
「……は?」
「最初は何事かと思ったね。確かに水と地だったはずなのに、なにか変だと思って探ったら属性変わってるんだから。まあ改めて実験なんて方法を取らなくても確実だったけど、ここに来ればカイリがいると思ったし」
「光と闇なんて組み合わせ、普通持たないからねぇ。この検証にはもってこいだよね、僕」

 あははと笑いながらカイリさん、あなたはなぜに頭を撫で続けるのか。うう、居たたまれない。逃げてもいいですか? いいよね? 逃げ場所がないっていう事実がまた悲しすぎる……。
 いやあの、やめてくださいって主張はさっきから何度もしてるんですけどね。華麗にスルーされてるんですよこれが。

「……つまり?」
「あんたは一番近くにいる人間の属性に反応して、自分の属性を変化させてるってこと」
「それはなんですか、私の真の属性は優柔不断で八方美人てことですか」
「そうとも言う」

 言うのか! 真顔で!

 え、ちょっと待って、勢いで口をついて出てきちゃったけど……優柔不断の八方美人だと?! 間違っちゃいないけど当たってても嬉しくない事実だぞ!
 本来、自分が持ってた能力の中で一番近い属性?

 ……属性の意味、違ってませんかーっ?!

「ユイ、あなた変なところで頭回るのねー! 属性、優柔不断、八方美人! いい! 新しい!」

 そこでソファに撃沈して笑い転げてるピアスさん、同調しないでっ。

「誰にでも同調しちゃう属性かぁ。性格だったらちょっとうっとうしいかもしれないけど、属性だったら面白いよね」

 ……カイリさんや。
 にこにこ笑顔でさらっとヒドイこと言いますねあなた。面白くない、面白くないよ。

「でもまぁ、さすがにそれじゃ長いから。暫定的に『鏡』属性ということで」

 理由がそれですかロベルトさん?!
 長いから?! ひどいからじゃなく!

 あ、でも鏡とか言われるとちょっと響き的にも美しくていいかもしれない……て、単純だな私。

 しかしロベルト。
 「若くない」というNGワードを発したおまえの罪は、消えてなんかいないんだからね……ふふ……。





   2010.8.28