目的が敵討ちだと口にすると、それを聞いた人たちの反応はたいていどちらか二つだ。
頑張れよと心に響かない励ましをしてくるか、わかったような口で無意味さを説くか。

実際、そうなのだろう。自分でも時々そう考えるくらいだ。どちらの言い分も、きっと正しい。どちらも今まで生きてきた環境と経験に裏づけられた言葉。それは、その人間にとってはどこまでも真実だ。

所詮、他人事なのだ。
私に、私たちに言葉を投げかける人たちのだれも、大事な人間をあんな形で失っていない。だから私たちの抱く思いなど理解できない。当たり前だ。他人なのだから。だれも、だれかになれはしない。誰もが同じ体験をして、同じことを考えたなら、それはもう人間ではない別の生き物なのだと思う。

けれども、わかってほしい、理解してほしいと願ってしまう。でもだれでもいいわけじゃない。
それは私の弱さ? 人であれば当然のこと?

まだ、敵討ちの志の生まれる前。母が生きていたとき。
その問いに答えをくれる人がいた。

あいつは、自分のことを理解されたいと思うのは、その思いを向ける相手のことを理解したいと思うからだと、キザったらしい言い回しの並ぶ手紙を送りつけてきたものだ。……ああ……今思い出すとぞわりと背筋が総毛立つ。その手紙に恥ずかしげも抱かず熟読していた過去の自分を、穴を掘って埋めてしまいたい。

……感情はともかく、まぁ、間違ってはいないのだろう。
ただ、相互理解というのはあいつの言うような色恋沙汰に関しての話だけではない。

私は、理解者が欲しい。
同じ志を持つ弟以外に、否定でも肯定でもない、一歩引いた場所で冷静な助言をしてくれる、理解者。

そこまで具体的に考えて、 …つまり私はつかず離れずのほどよい距離感を保ってくれる都合の良い仲間を欲しているのかという考えに至った。

私は結局救いが欲しいだけで、あいつの言うような相互理解を望んでいるのではないのだ。

きっと今は、無理だ。
心の奥から燃え広がる赤黒い醜い感情に従って生きているうちは、もし現れてくれたそんな人さえ飲み込んで、焼き焦がしてしまう。

いつか、私は心から、互いを想いあえるような人の存在を望む日が来るだろうか。

……あぁ、そうだ。「焼く」で思いついたことがひとつある。

今度あの家に帰ることがあるのなら、うっかり机の引き出しの奥に埋蔵したまま忘れていた、おぞましい手紙の束を焼き捨てよう……。

そんな黒歴史への幕引きを心に決め、私は無理やり眠りにつこうと枕の下に頭を突っ込んだ。

闇はまだ――晴れない。





時間軸:本編開始直前。
敵討ちのきょうだい、姉。