おれはいったいなんのために魔術師になりたいんだろう。

そんな疑問を抱くようになったのは、同期の奴等が教室の隅で将来の夢について熱く語り合っている横を通り過ぎてからだった。

そいつらは王室付きのお抱え魔術師になりたいだの、協会のトップ派遣員になって賞賛されたいだの、貴族の屋敷に雇われて楽して生きたいだのと、自分の実力そっちのけで言いたい放題言っていた。そんな分不相応な夢を語る暇があったら魔術書の一冊でも読んでろと思う。激しく無駄だ。

けれども彼らの姿はなんとなく心の隅に引っかかり、ふとした瞬間疼くようにおれの中のなにかをざわつかせた。
専攻も研究グループも同じで自然と話すことの多い友人にその話題を出すと、当たり前のように「ああ、王室付きの魔術師とか夢だよな。俺は逆立ちしても無理だけど」なんて言い出したから驚いた。てっきり、学院内部の脅迫事実を掴んで実益を得ることに無上の喜びを感じ、それがそのまま在学理由のすべてだとばかり思ってたから。

そして「お前は?」と返されて、おれは言葉を失った。
なにも思い浮かばなかった。

おれは、どうしたかったんだろう。
魔術師になってなにがしたかったんだろう。先のビジョンがまったく想像できない自分に、愕然とした。

あの人に拾われて、いろいろなことを教わりながら、おれはただ漠然と、魔術師になればなんでもできると考えていた。今にして思えばそうだった。

でも、その「なんでも」っていうのはなんだ? なんでできるようになったとして、なにがしたい?

楽しそうに夢を語る同期たちが、色鮮やかに見えた。
それなのにおれはまだ、這いつくばって生きていた頃から変わっていない。色のない世界。灰色の、なにも持たない未来を望めない自分。

所詮、持って生まれた運命ってやつは変えられないんだろうか。
……そんなはずはない。
あってたまるか。

運命なんてもんに、おれがこれまで必死で重ねてきた努力を、時間を、踏みにじられてたまるもんか。

まずは夢を持ってみることからだ。
そこでとりあえず、来月に控えた筆記試験で首席を目指してみようと決めた。
俺の答えを待っていた友人にそう宣言したら、「お前別に目指さなくても取れるじゃん」と呆れられた。





時間軸:本編開始数年前。
ちょっとずれてる前期主人公。