生まれてこの方、動物に関わった経験はないに等しい。

ずっと昔…本当に昔、直前まで「生きていた」動物になら触れたことはある。弓で射殺した鹿や猪の解体で。あぁ、そういえばなんとなく色味が似ているな。

ちょこりと行儀よく前足を揃え、安宿の床の上から「おすわり」の姿勢で俺を見上げているのは「生きている」狐の仔だ。
しばらく無言で見つめ合う。

目から圧力を感じたので、取り合え頭を撫でておくことにした。狐の仔は目を糸のようにして、持ち上げた鼻先をぐいぐい押しつけてくる。どうやら要望に叶っていたらしい。

しかし、手触りがなかなか…悪くないな。仔ども特有なのだろう芯のない柔らかな毛質は毛皮にしたら高く売れそうな…いや、表面積が絶対的に足りない。それこそ子供用のマフラーくらいにしかなりそうもない。これは。

などと本人――本狐――にとって生死問題なことを考えていたら、狐の仔は俺の手の下からするりと離れ、俊敏な動きでベットの下に潜りこんでしまった。その間際、ふっかりした尻尾をつかもうとしたのだが、手の中に入ったのは空気だけ。狐の仔は俺に背を向けて、ベッドと床の隙間で丸くなった。計算したかのように俺の手が届くか届かないかの位置で。

ベッドを持ち上げて捕まえようかと考える。が、そこまでするのも馬鹿馬鹿しい。持ち上げたところで俺の手が空く前に別のところに逃げ込まれるのが関の山の気もする。そのうち勝手に出てくるだろう

狐の仔は尻尾をはたり、はたりと動かして、猫じゃらしの要領で俺を誘っている。

だれが引っかかるか。舐めるな。誘っておいていざ手を出したら引っ込める気満々なのはわかってるぞ。

だが尻尾が明らかに手の届く位置で止まったので、俺はつい床に這い蹲り――一気に伸ばした手が見事に空ぶった。

……遊ばれている。

しばらくすると尻尾はまた、はたりはたりと動き出した。
だれが二度も同じ手に引っかかるか!





時間軸:本編よりずっと昔。
賞金稼ぎと、狐の仔